クラウドという言葉が広まり始めた頃、使っていないPCの計算能力や回線を貸し出し、その対価を受け取れるサービスがいくつかありました。
PCを使っていない夜だけ動かしておけば、余っているCPUやメモリが誰かの仕事を処理し、少しお金になる。そんな仕組みを見た記憶がある人もいると思います。
そういえば、あのサービスは今どうなったのでしょうか。
2026年8月時点で追ってみると、発想そのものは消えていませんでした。ただし、昔と同じ形で広がったわけでもありません。
家庭に余っているCPUを集めるモデルは主流にならず、現在は高価で需要の大きいGPUを貸す市場へ重心が移っています。さらに、その途中で事業内容を大きく変え、巨大なAIデータセンターを建設する会社になった例まであります。
一方で、家庭のPCを他人に貸す難しさは今も残っています。電気代、回線、故障、セキュリティ、そして「表示されているスペックを本当に使えるのか」という信用の問題です。
この記事では、昔のサービスから現在のGPUマーケットプレイスまでを追いながら、この仕組みがどこで生き残ったのかを見ていきます。
昔と今のサービスを並べてみる
まず、今回の話に関係する代表的なサービスやプロジェクトを並べます。
| サービス / プロジェクト | 登場時期 | 主な用途 | 報酬 | 2026年現在 | 変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| SETI@home | 1999年 | 科学計算 | なし | 休眠 | 2020年に一般参加者へのタスク配布を停止 |
| BOINC | 2000年代前半 | 科学計算の共通基盤 | 基本なし | 現役 | 現在も複数の研究プロジェクトが利用 |
| Gomez PEER | 2000年代 | Webサイトの性能計測 | 現金 | PEERは現役ではない | Gomezは2009年にCompuwareへ買収され、同社APM事業は後にDynatraceブランドへ |
| LoadTeam | 2010年代 | CPU計算、暗号資産マイニングなど | 現金 | 現役 | 昔ながらの「PCを動かして稼ぐ」に近い |
| NiceHash | 2014年 | ハッシュレート売買 | Bitcoin | 現役 | 一般計算ではなく暗号資産マイニング市場として定着 |
| Golem Network | 2016年 | 分散CPU / GPU計算 | GLM | 現役 | P2P Compute Marketplaceとして継続 |
| Vast.ai | 2016年創業、2018年公開 | GPU計算 | 現金 | 現役 | 個人のゲーミングPCからデータセンターまで参加 |
| Fluidstack | 2017年 | 当初は遊休GPUのマーケットプレイス | 事業者向け | 現役 | AIクラウドを経て大規模AIデータセンター事業へ |
| Render Network | 2017年構想公開、2020年一般公開 | GPUレンダリング、AI計算 | RENDER | 現役 | OTOY発のネットワーク。現在はRender Network Foundationがガバナンスを担い、OTOYもパートナーとして参加 |
| Salad / SaladCloud | 2018年 | 家庭PCのGPU / CPU / 回線 | 残高、RENDERなど | 現役 | 2026年にRender NetworkのSubnetへの統合を進行中 |
同じ「余っている計算資源を他人に使わせる」という発想でも、中身はかなり違います。
科学研究のために無償で参加するもの、暗号資産を掘るもの、Dockerコンテナを動かすもの、3Dレンダリングを処理するもの、AI向けGPUを時間貸しするものが同じ系譜に並んでいます。
原型は「世界中の余ったPCを集めれば大きな計算機になる」
この発想を広く知らしめた代表例がSETI@homeです。
SETI@homeでは、世界中の参加者が自分のPCの空き時間を提供し、電波望遠鏡で集めたデータの解析を行いました。報酬を得るサービスではありませんが、家庭のPCを大量に束ねて大規模計算を行う考え方を一般にも見える形にしたプロジェクトでした。
2020年3月末に一般参加者への新しいタスク配布は停止され、現在は休眠状態です。
その技術的な流れを引き継ぐBOINCは現在も使われています。天文学、数学、物理など複数の研究プロジェクトが、参加者のPCを分散計算に利用しています。
https://setiathome.berkeley.edu/old_news.php
https://boinc.berkeley.edu/projects.php
ここまではボランティアです。
しかし、世界中のPCを集めて価値のある処理ができるのであれば、次に出てくる発想は自然です。
その計算能力を企業へ売り、PCを提供した人にも報酬を払えないか。
Gomez PEERは「PCを起動しておけば報酬」の時代に実在した
昔の記憶に近いサービスの一つがGomez PEERです。
Gomez PEERはWindows PCのバックグラウンドで動作し、世界各地の家庭回線やPCを使ってWebサイトの応答性能を測定する仕組みでした。参加者には、オンライン時間や処理した仕事に応じて報酬が支払われていました。
単純なCPUベンチマークだけではありません。企業側から見ると、世界中の異なるISPや地域から実際にWebサイトへアクセスし、ユーザーに近い条件で性能を測れることにも価値がありました。
Gomez自体は2009年にCompuwareへ2億9500万ドルで買収されています。その後、CompuwareのApplication Performance Management事業は2014年にDynatraceの名称で運営されるようになりました。
そのため、Gomez PEERという個人向けサービスは現在残っていませんが、Gomezが扱っていたWebパフォーマンス計測の事業は、現在のObservability / Application Performance Monitoringにつながる流れの中にあります。
Compuware to Acquire Gomez
DETROIT and LEXINGTON, Mass., Oct. 7, 2009 (GLOBE NEWSWIRE) -- Compuware Corporation (Nasdaq:CPWR) and Gomez today announced the signing of a definitive...
https://www.globenewswire.com/news-release/2009/10/07/406092/11175/en/compuware-to-acquire-gomez.html
Compuware Renames Its APM Business Dynatrace
DETROIT, Sept. 9, 2014 (GLOBE NEWSWIRE) -- ...
https://www.globenewswire.com/news-release/2014/09/09/664710/10097720/en/Compuware-Renames-Its-APM-Business-Dynatrace.html
この例は少し面白く、昔のサービスが単純に「失敗して消えた」とは言い切れません。
家庭PCを集める部分は消えても、そこで売っていた価値そのものは別の形で残っています。
昔ながらの仕組みも完全には消えていない
さらに調べると、2026年現在でもかなり昔の雰囲気を残したサービスがあります。
LoadTeamは、PCへアプリを入れてバックグラウンドで動かし、処理した仕事に応じてPayPalで報酬を受け取れるサービスです。
現在の公式ページでは、主な処理としてCPUを使った暗号資産マイニングを明記しています。利用者はCPU使用率を調整でき、アイドル時だけ負荷を上げることもできます。
https://www.loadteam.com/install
NiceHashも同じ時代の発想を別方向で成功させた例です。
こちらは一般的な計算処理を受け付けるクラウドではなく、CPU、GPU、ASICなどが持つハッシュレートを売買する市場です。余っている計算能力を他人へ貸すという構造は似ていますが、用途を暗号資産マイニングへ限定したことで、売るものと買うものが明確になっています。
https://www.nicehash.com/
なぜ家庭のCPUを集めるクラウドは主流にならなかったのか
理屈だけなら、世界中にある使われていないPCを集めた方が効率的に見えます。
すでにPCは購入済みです。データセンターを新設する必要もありません。夜間や仕事中など、使われていない時間だけ貸せばよいように思えます。
ところが、実際のクラウドとして考えると条件がかなり悪くなります。
家庭ごとにCPU、メモリ、ストレージ、OS、ドライバ、回線速度が違います。突然PCの電源が切られることもあれば、Wi-Fiが不安定になることもあります。冷却性能にも差があり、高負荷を続けるとサーマルスロットリングが起きるPCもあります。
さらに、計算能力が余っているからといって、運用コストまで無料になるわけではありません。
電気代、ネットワーク、故障率、仕事の再実行、利用者同士の隔離、悪意のある処理への対策などを含めると、安価で均質なデータセンターのサーバーと競争するのは簡単ではありません。
CPUはクラウド側でも比較的調達しやすく、単価も低い資源です。家庭PCを束ねるために追加される複雑さを吸収できるほど、1台のCPUを借りる価値が高くなりにくかったとも考えられます。
GPUが高価になり、同じ発想にもう一度価値が出た
現在の状況が違うのはGPUです。
AI、3Dレンダリング、動画処理などでGPU需要が増え、高性能GPUはCPUより高価な資源になりました。一方、ゲーミングPCのGPUは、ゲームをしていない時間にはほとんど使われていないことがあります。
ここで、昔の発想がもう一度成立しやすくなります。
昔
家庭の余ったCPU
↓
安価な計算能力として売る
↓
データセンターのCPUと競争
現在
家庭や小規模事業者の高性能GPU
↓
AI・Rendering・GPU Computeとして売る
↓
不足している高価なGPUを必要とする市場
Vast.aiはこの構造をかなり直接的に実現しています。
公式ドキュメントでは、ホストは「1台のゲーミングPCを持つ個人」からデータセンターまでを想定しています。利用者側はGPUモデル、GPU数、VRAM、CPU、RAM、ストレージ、帯域、価格などを見てマシンを選べます。
Concepts - Vast.ai Documentation: Affordable GPU Cloud Marketplace
The core vocabulary of the Vast.ai platform, marketplace, offers, instances, templates, endpoints, workers.
https://docs.vast.ai/guides/concepts
Golem Networkも現在まで続いています。Providerは自分のCPUやメモリなどのリソース量を設定し、Requestorの処理を実行してGLMを受け取れます。現在はGPUを利用するための仕組みも用意されています。
https://docs.golem.network/docs/providers
Render Networkは、3Dレンダリングを必要とするクリエイターと、余っているGPUを持つNode Operatorを結ぶネットワークとして成長しました。現在はAIやMachine Learning向けのCompute Networkにも範囲を広げています。
Frequently Asked Questions | The Render Foundation
Advancing the Next Generation of Rendering and AI Technology. We are a not-for-profit dedicated to maintaining the core Render Network protocol and growing its community.
https://renderfoundation.com/faq
Saladは今も「使っていないゲーミングPCを貸す」にかなり近い
現在のサービスで、昔イメージした仕組みに最も近いものの一つがSaladです。
Windows PCへアプリを入れ、PCを使っていない間にGPU、CPU、インターネット帯域などを提供します。仕事が割り当てられると処理を実行し、その対価としてSalad Balanceを受け取れます。
公式サイトも利用者を「gamers and PC enthusiasts」と表現しており、ゲーミングPCの遊休資源を使うことを明確にしています。
Download Salad
Ready to profit from your PC? Salad helps you earn passive rewards from your idle computer. Download Salad now to start earning on our secure, community-powered cloud network.
https://salad.com/download
しかもSaladは2026年にRender Networkとの統合を進めています。
2026年4月にRender NetworkのSubnetになる提案が承認され、7月にはSalad利用者が報酬をRENDERで受け取る機能などが本番導入されました。8月時点では、Saladの決済基盤をRender Networkへ移す次の段階が進められています。
Saladによると、2026年4月時点で60,000台の日次アクティブマシンが180か国以上に存在します。
RNP-023 Approved: Salad Is Joining the Render Network - SaladCloud Blog
Salad is joining the Render Network after RNP-023 approval. Learn what this means for chefs, customers, and the future of decentralized GPU compute.
https://blog.salad.com/salad-joins-render-network/
Salad x Render Network: Milestones 1 and 2 Are Live - SaladCloud Blog
When the Render Network community approved RNP-023 earlier this year, Salad started on a three-milestone roadmap to bring our platform on chain as an exclusive Render subnet. Milestones 1 and 2 are live and in production! Pay for SaladCloud with RENDER, shipped first. Customers can now fund their SaladCloud accounts by depositing RENDER directly from the Billing & Usage section of the portal, with credits applied at the prevailing RENDER/USD exchange rate. The first customer payment in RENDER landed on May 28, and deposits have been flowing since. RENDER rewards for Salad Chefs, went live yesterday. The Chefs who power our network with their idle GPUs can now redeem their Salad Balance for RENDER tokens directly from the Salad storefront, delivered to their own Solana wallet. The very first redemption is already onchain — you can see it for yourself on the Solana explorer. That transparency is the whole point: real work, real rewards, verifiable by anyone. We’re genuinely excited about what this partnership unlocks, for our customers, for our Chefs, and for the broader Render community…and we’re not slowing down. Work is already underway on Milestone 3: migrating Salad’s payment rails fully to RENDER, incorporating the burn-mint equilibrium model at the heart of the Render Network. It’s the largest piece of the integration, and we’ll be publishing a proposed architecture for community review soon. Thank you to the Render Foundation and the Render community for the partnership and the vote of confidence. More soon! — Bob
https://blog.salad.com/salad-x-render-network-milestones-1-and-2-are-live/
Fluidstackは家庭GPUから巨大AIインフラへ移った
この歴史の中で特に変化が大きいのがFluidstackです。
Forbesによると、2017年に始まったFluidstackは、当初はAI用GPUを安く使いたい利用者と、ゲームをしていない時間のNVIDIA GPUを持つゲーマーを結ぶマーケットプレイスでした。
その後、対象を企業やデータセンターのGPUサーバーへ広げ、現在は事業内容が大きく変わっています。
2026年のFluidstackは、電力を確保し、データセンターを設計・建設し、AI向けインフラを運用する会社です。Anthropicは2025年11月、米国内のAIインフラへ500億ドルを投資し、ニューヨーク州とテキサス州などのデータセンターをFluidstackと構築すると発表しました。
初期
ゲーマーの余ったGPU
↓
GPU Marketplace
その後
企業・データセンターのGPU
↓
AI Cloud
現在
電力確保
↓
データセンター設計・建設
↓
大規模AIインフラ
家庭の余ったGPUを集めるところから始まった会社が、最終的に巨大データセンターを作る側へ移ったわけです。
これは「分散クラウドがそのまま大手クラウドを置き換えた」という話ではありません。むしろ、GPU需要を追いかけた結果、安定した電力、ネットワーク、冷却、運用をまとめて確保できるデータセンターへ事業が近づいていった例として興味深いところです。
With $11 Billion AI Factory Deal, Fluidstack Breaks Into AI Big Leagues
Fluidstack’s revenues ballooned to $66 million by selling access to GPUs and landing a deal to build a massive AI data center for the French government.
https://www.forbes.com/sites/iainmartin/2025/09/03/tiny-uk-neocloud-fluidstack-breaks-into-the-ai-big-leagues/
Anthropic invests $50 billion in American AI infrastructure
Anthropic is an AI safety and research company that's working to build reliable, interpretable, and steerable AI systems.
https://www.anthropic.com/news/anthropic-invests-50-billion-in-american-ai-infrastructure
ゲーミングPCなら、ゲームそのものを貸せるのか
ここまでGPUの計算能力を貸す話を見てきましたが、ゲーミングPCなら別の使い方も考えられます。
PCそのものをクラウドゲーミング環境として他人に貸す方法です。
この場合、5070 Tiの計算結果をネットワーク越しに送るわけではありません。ゲームは貸し手のPC側で動かし、完成した映像を圧縮して利用者へ送ります。
利用者
│
│ キーボード・マウス・ゲームパッド入力
▼
インターネット
│
▼
貸し手のPC
│
├─ ゲームを実行
├─ GPUで描画
└─ 映像をエンコード
│
▼
映像・音声を配信
│
▼
利用者
GeForce NOWのようなクラウドゲーミングと基本的なデータの流れは同じです。
技術的には可能です。しかし、家庭PC同士でこれを市場化しようとすると、GPU計算を貸す以上に面倒な問題が出てきます。
貸す側は「売上」ではなく電気代を引いた後を見る必要がある
PCが余っているとしても、電気まで余っているわけではありません。
たとえばゲームやGPU処理中のPC全体が平均350Wを消費し、それを1日10時間、30日動かしたとします。
0.35 kW × 10時間 × 30日
= 105 kWh / 月
電気料金を仮に35円 / kWhとすると、電気代だけで月3,675円です。
ここにはGPUや電源、ファン、SSDなどの稼働時間が増えることによる消耗は含めていません。
報酬が月5,000円なら「5,000円稼いだ」と見るより、少なくとも次のように考える必要があります。
受け取った報酬
- 追加の電気代
- サービス手数料
- 通信コスト
- ハードウェアの消耗
= 実際に残る金額
この問題はサービス側も認識しています。
Saladの公式FAQでも、GPUとCPUの両方を動かすと消費電力が増え、電気料金が高い環境では総利益が下がる場合があると説明しています。
https://support.salad.com/faq/jobs/should-i-enable-my-gpu-my-cpu-or-both/
「使っていないPCだから原価はほぼゼロ」という考え方では採算を判断できません。
家庭回線では帯域よりレイテンシも問題になる
AIのバッチ処理なら、入力データを渡した後、数分や数時間計算して結果を返す仕事もあります。この場合は多少レイテンシが高くても処理できます。
ゲームは違います。
ボタンを押した入力をホストへ送り、ゲームを描画し、映像をエンコードし、利用者へ返す必要があります。
入力
↓
ネットワーク往路
↓
ゲーム処理
↓
GPU描画
↓
映像エンコード
↓
ネットワーク復路
↓
映像デコード・表示
どこか一つが遅くても操作感に影響します。
そのため、単純に「上り1Gbpsの回線があります」だけでは品質を保証できません。利用者との物理的な距離、ISP間の経路、jitter、packet loss、Wi-Fiの状態まで関係します。
データセンター型クラウドゲーミングが地域ごとに拠点を置く理由もここにあります。
貸す側は知らない利用者を自分のPCで動かすことになる
もう一つ大きいのがセキュリティです。
利用者ごとにVMやコンテナを作れば、普段使っているWindows環境とゲーム用環境を分離できます。
しかし、隔離が必要なのは一方向ではありません。
貸す側の不安
知らない利用者
↓
VM / Container
↓
自分が所有する物理PC
借りる側の不安
自分のアカウントやデータ
↓
VM / Container
↓
知らない人が所有する物理PC
貸す側は、利用者がホスト環境へ抜け出したり、LAN内の別機器へアクセスしたりしないかを気にします。
借りる側は、ホスト所有者が自分のデータへアクセスできないかを気にします。
VMで分離すればかなり改善できますが、物理PCそのものを所有しているのは貸し手です。クラウド事業者を信用する場合とは、信頼する相手の性質が違います。
Vast.aiのSecurity FAQにも、この問題がかなり率直に書かれています。利用者同士はコンテナで隔離する一方、Providerからの保護については「Provider security varies significantly」と説明し、Individual Hostはデータセンターほど正式なセキュリティ体制を持たない場合があるとしています。
機密性が必要な場合はSecure Cloudを使い、credentialsをinstanceへ保存しないことも推奨されています。
Security FAQ - Vast.ai Documentation: Affordable GPU Cloud Marketplace
Data protection and platform security
https://docs.vast.ai/guides/reference/faq/security
ゲームで考えると、これはSteamやEpic Gamesなどのアカウントをどこで認証するかという問題にもつながります。
知らない個人が所有する物理PC上の環境へ、自分のゲームアカウントでログインする設計なら、サービス側にはかなり強い隔離とセッション終了後の消去が必要になります。
借りる側は「RTX 5070 Ti」と書かれているだけでは足りない
反対に、借りる側にも信用の問題があります。
たとえば次のような商品があったとします。
GPU: RTX 5070 Ti
VRAM: 16 GB
これだけを見ると5070 Tiの性能をそのまま使えるように見えます。
しかし実際のゲーム性能はGPU型番だけでは決まりません。
CPUが遅い、メモリが不足している、SSDが遅い、PCIe帯域が狭い、熱でクロックが落ちている、回線が不安定といった条件でも性能は落ちます。
さらにサービスの設計によっては、同じホスト上で複数の処理が走り、CPU、ストレージ、ネットワークなどが競合する可能性があります。GPUについても、物理GPUを厳密に二等分しなくても、複数セッションの同時実行やリソース制限があれば「5070 Tiと書いてあるのに期待した性能が出ない」という状況は作れます。
だから、マーケットプレイスではスペック表以外の指標が必要になります。
Vast.aiはOfferにGPUモデルやVRAMだけでなく、DLPerfとReliability Scoreを表示します。DLPerfは、そのGPUとホストを組み合わせた実際のDeep Learning throughputを比較するためのベンチマークです。
また、Vast.aiのInstanceは、借りたGPUに対してexclusive accessを持つと公式ドキュメントに明記されています。
GPU型番
+
実測性能
+
稼働実績
+
専有条件
+
ネットワーク
=
借りる側が判断できる材料
この仕組みはAI向けですが、P2Pクラウドゲーミングでも考え方は同じです。
「RTX 5070 Ti」という商品名だけを見せるより、
- GPUを専有できるか
- 同時セッション数はいくつか
- 実測したゲーム性能
- CPUとRAM
- SSD性能
- 回線速度とレイテンシ
- 過去の稼働率
まで見せた方が、利用者は品質を判断しやすくなります。
Concepts - Vast.ai Documentation: Affordable GPU Cloud Marketplace
The core vocabulary of the Vast.ai platform, marketplace, offers, instances, templates, endpoints, workers.
https://docs.vast.ai/guides/concepts
家庭PCのクラウド化では「信用」を作る仕組みが必要になる
ここまで見ると、家庭PCを集めたサービスが難しい理由は性能の低さだけではありません。
中央のデータセンターなら、事業者がまとめて管理できます。
同じGPU
同じCPU
同じOSイメージ
同じネットワーク
同じ監視
同じセキュリティ基準
P2Pでは、参加するマシンごとに条件が違います。
そのため、現在のGPUマーケットプレイスは単純な「GPU一覧」ではなく、Verification、Benchmark、Reliability、Secure Cloudなどを用意しています。
つまり、余っているPCを集める技術よりも、バラバラなPCを安心して売買できる市場にする仕組みの方が難しい部分になっています。
Vast.aiでは、新しいマシンをUnverifiedとして扱い、自動テストによって性能やネットワーク、安定性などの基準を満たしたマシンをVerifiedにします。公式のSelf-TestではGPUだけでなく、PCIe帯域、CPU、RAM、ネットワーク、実際の処理性能まで確認します。
Verification Stages - Vast.ai Documentation: Affordable GPU Cloud Marketplace
https://docs.vast.ai/host/verification-stages
このような仕組みがなければ、貸す側は「知らない人に自分のPCを渡して大丈夫か」、借りる側は「知らない人のPCに仕事を渡して大丈夫か」という不安を解消できません。
昔のアイデアは消えたのではなく、採算が合う場所を変えた
最初の疑問に戻ります。
昔あった「使っていないPCを貸して稼ぐサービス」はどうなったのか。
一部は終了しました。Gomez PEERのように個人PCを使う仕組みがなくなり、会社の事業だけが別の形で残った例もあります。
一方で、LoadTeamのように昔ながらの形を現在も続けているサービスもあります。Golemのような分散Compute Networkも残っています。
そして現在、この市場の中心になっているのはGPUです。
科学研究
↓
家庭PCの分散CPU
↓
有料Compute Marketplace
↓
暗号資産マイニング
↓
分散GPU
↓
AI / Rendering
CPU時代に存在した問題が解決したわけではありません。
家庭側の電力単価や冷却効率はデータセンターほど最適化されていない場合があり、回線品質も一定ではありません。貸す側と借りる側の双方にセキュリティ上の不安があり、性能を保証するためにはベンチマークや監視も必要です。
それでもGPUは高価で、AIやレンダリングから強い需要があります。そのため、多少運用が複雑でも、世界中に眠っているGPUを市場へ出す価値が生まれました。
Fluidstackのように、家庭の遊休GPUを集めるところから始まり、最終的には大規模AIデータセンターを作る側へ移った会社もあります。
昔の「余ったPCを貸して稼ぐ」というアイデアは、クラウドに負けて消えたわけではありません。
CPUでは吸収しにくかった運用の複雑さを、高価なGPUなら吸収できる場所が出てきた。
2026年の状況を見ると、そのように捉えるのが近そうです。