AI時代のSEOでは、「経験談が大事」と言われることがあります。
AIでも文章を作れるようになったからこそ、人間が実際に試したこと、確認したこと、判断した理由に価値がある、という考え方です。
この考え方には、一定の妥当性があります。
ただし、「経験談を書けばSEOで強い」とまで言ってしまうと、かなり雑です。
経験談に価値があるとしたら、それは「経験しました」と書いてあるからではありません。
読者が、自分の判断に使える具体的な材料があるからです。
この記事では、AI時代のSEOにおいて経験談がどのような意味を持つのかを整理します。
ここでいう経験談は、日記的な感想ではなく、技術選定、ツール利用、サイト運営、検証作業などで得た具体的な記録を指します。
E-E-A-Tとは何か
経験談の話をする前に、まずE-E-A-Tについて簡単に整理します。
E-E-A-Tとは、Experience、Expertise、Authoritativeness、Trustworthinessの頭文字です。
日本語では、経験、専門性、権威性、信頼性のように説明されます。
Google Search Centralの「Creating helpful, reliable, people-first content」では、Googleのシステムは、役に立つコンテンツを判断するうえで、E-E-A-Tの側面を示すコンテンツを見つけるために複数の要素を使うと説明されています。
ただし、E-E-A-Tそのものが単独のランキング要素というわけではない点には注意が必要です。
「Experienceがあるから順位が上がる」と単純に考えるのではなく、Googleが品質を考えるうえで、経験も重要な観点のひとつとして扱っている、くらいに理解する方が安全です。
また、Googleは2022年に、E-A-TへExperienceを加え、E-E-A-Tとして扱うことを説明しました。これについては「E-A-T gets an extra E for Experience」で触れられています。
ただし、この記事でも説明されているように、評価者ガイドラインは検索システムを評価するためのものであり、ページの順位を直接決めるものではありません。
つまり、E-E-A-Tは検索結果の品質を考えるための目安であり、単純な採点表ではありません。
経験談を書けば強い、という単純な話ではない
経験談が注目される理由はわかります。
AIは、一般的な説明文や要約をかなり自然に作れます。
そのため、単なる一般論だけの記事は、どこかで見たような内容になりやすくなりました。
一方で、実際に試した人しか書きにくい内容があります。
たとえば、どの設定で詰まったのか。どの選択肢と迷ったのか。公式情報を読んだあと、実際の作業でどこがわかりにくかったのか。
こうした情報は、読者にとって役に立つことがあります。
ただし、「体験しました」と書くだけでは弱いです。
AIでも、それっぽい体験談風の文章は作れます。
「実際に使ってみました」「とても便利でした」「初心者にもおすすめです」という文章だけなら、読者はそこから判断できません。
大事なのは、経験談の雰囲気ではなく、その経験から何がわかるのかです。
価値があるのは、経験そのものより判断材料
読者が知りたいのは、「この人が体験したかどうか」だけではありません。
自分の場合にも当てはまりそうか。試す価値があるか。注意点はどこか。別の選択肢と比べてどうなのか。
そうした判断に使える情報があると、経験談は役に立ちます。
たとえば、次のような情報です。
| 判断材料 | 読者にとっての意味 |
|---|---|
| 前提条件 | 自分の環境に当てはまるか判断できる |
| 比較した選択肢 | なぜその結論になったのか見える |
| 失敗・つまずき | 同じミスを避けやすい |
| 確認した範囲 | どこまで信じてよいか判断できる |
| 判断理由 | 自分の状況に置き換えやすい |
前提条件とは、使用したバージョン、実行環境、対象サービス、前提にした構成、作業時点の日付などです。
技術記事なら、環境が違うだけで結論が変わることがあります。SEOやブログ運営の記事でも、新規サイトなのか既存サイトなのか、記事数はどのくらいか、どの期間を見た話なのかで意味が変わります。
比較した選択肢も重要です。
「これが良かった」と書くだけでは、読者は他の選択肢とどう違うのか判断できません。
なぜA案ではなくB案を選んだのか。使わなかった方法はなぜ外したのか。自分の用途では何を優先したのか。
ここが書かれていると、単なる感想ではなく判断材料になります。
失敗やつまずきも、読者にとって役に立ちます。
成功した手順だけでは見えない注意点があるからです。
どこで詰まったのか。何を勘違いしたのか。どの設定で失敗したのか。何をしたら解決したのか。
こうした情報は、同じ状況の人が同じミスを避ける助けになります。
確認した範囲も、結論の扱い方を決める材料になります。
ローカルで確認しただけなのか、本番環境でも確認したのか。一部のブラウザだけなのか。公式情報だけを確認して、実地検証はしていないのか。
ここが曖昧だと、読者はその結論をどこまで信じてよいかわかりません。
最後に、判断理由です。
コストが低いから選んだのか。保守しやすいから選んだのか。自分の用途では十分だったからなのか。将来の拡張性を優先したのか。
判断理由があると、読者は自分の状況に置き換えて考えやすくなります。
つまり、経験談に価値が出るのは、体験そのものではなく、そこから読者が判断できる情報が残っているときです。
AIでも“それっぽい経験談”は作れる
AI時代にややこしいのは、経験談風の文章も作れてしまうことです。
実際には試していなくても、AIに頼めば「使ってみた感想」のような文章は作れます。
そのため、これからは「経験談っぽい文章」であること自体の価値は下がると考えています。
大事なのは、検証できる具体性です。
どの環境で試したのか。どこで失敗したのか。どこまで確認したのか。なぜそう判断したのか。
こうした情報がない経験談は、AI生成か人間が書いたかに関係なく、読者の判断材料としては弱いです。
Google Search Centralの「Google Search’s guidance about AI-generated content」では、AIや自動化の適切な利用そのものはガイドライン違反ではないと説明されています。
つまり、AIを使ったかどうかだけが問題ではありません。
AIを使っていても、実際に確認した内容や独自の整理があれば、読者に役立つ記事になる可能性があります。
一方で、人間が書いていても、実際には試していない体験談風の文章なら弱いです。
問題は、誰が書いたかだけではなく、読者が使える具体性があるかどうかです。
個人ブログでは、成功例だけでなく迷いにも価値がある
個人ブログでは、完成された正解だけを書く必要はありません。
むしろ、迷ったことや途中で気づいたことに価値が出る場合があります。
公式ドキュメントや企業メディアは、完成した説明になりやすいです。
もちろん、それは信頼できる情報として重要です。
ただ、実際に作業する側は、公式情報を読んでもすぐに判断できないことがあります。
自分の環境ではどの方法が合うのか。今やるべきなのか、後回しでよいのか。複数の選択肢のうち、どれが過剰で、どれが十分なのか。
こうした迷いは、個人ブログの方が書きやすい部分です。
ただし、単なる日記にすると読者には使いにくくなります。
「迷った」だけではなく、何と迷ったのか、どこを見て判断したのか、最終的にどう考えたのかまで書く。
そこまで整理されていれば、迷いも読者の判断材料になります。
経験談はSEOのためだけに書くものではない
経験談は、SEOのテクニックとしてだけ扱うと薄くなります。
「Experienceが大事らしいから体験談を入れる」という発想だと、形式だけの文章になりやすいです。
本当に残す価値があるのは、自分が何を確認し、どこで迷い、何を理由に判断したのかです。
それを整理して書けば、自分にとってもあとから読み返せる記録になります。
同じことで迷っている読者にとっても、判断材料になります。
経験談があるから強いのではありません。
判断材料があるから役に立つ。
AI時代のSEOで経験談に意味があるとしたら、そこです。